「少女は卒業しない」映画と原作小説の違いを解説|4人の少女に焦点を当てた2日間のストーリー

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朝井リョウさん原作の「少女は卒業しない」が映画化され、2023年2月23(木祝)から公開されます。

映画化にあたり、監督の中川駿さんは「原作をぼくの中で吸収し、自分の解釈で作り直す方法をとりました」とインタビューで答えています。

原作既読、映画を見に行く前にガッツリ調べておきたい筆者が、内容がどう変わっているのかを調査・解説していこうと思います。
※映画鑑賞後に追記予定。

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原作小説・映画「少女は卒業しない」のネタバレになる可能性がありますのでご注意ください。
オチに関するような内容については、クリックして表示する仕様にしています。

「少女は卒業しない」映画・原作小説それぞれのあらすじ

原作小説のあらすじ

今日、わたしは「さよなら」をする。
図書館の優しい先生と、退学してしまった幼馴染と、生徒会の先輩と、部内公認の彼氏と、自分だけが知っていた歌声と、たった一人の友達と、そして、胸に詰まったままの、この想いと――。

別の高校との合併で、翌日には校舎が取り壊される地方の高校、最後の卒業式の一日を、7人の少女の視点から描く。青春のすべてを詰め込んだ、珠玉の連作短編集。

集英社「少女は卒業しない」

「皆があえて見ようとしないエグイくらいリアルなところを掘って表現してくる」のが朝井リョウ作品という印象が強いのですが、今作はリアルさはあるのだけど、どこか幻想的で浮世離れした美しさのある、不思議な清涼感が漂う小説だなと感じました。

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映画のあらすじ

今日、私はさよならする。
世界のすべてだった この“学校”と、“恋”と。
廃校が決まり、校舎の取り壊しを目前に控えたとある地方高校、
“最後の卒業式”までの2日間。

別れの匂いに満ちた校舎で、世界のすべてだった“恋”に
さよならを告げようとする4人の少女たち。
抗うことのできない別れを受け入れ、
それぞれが秘めた想いを形にする。
ある少女は進路の違いで離れ離れになる彼氏に。
ある少女は中学から片思いの同級生に。
ある少女は密かに想いを寄せる先生に。
しかし、卒業生代表の答辞を担当するまなみは、
どうしても伝えられない彼への“想い”を抱えていたー。

映画「少女は卒業しない」公式サイト
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映画「少女は卒業しない」原作小説との違い

エピソードを7つ→4つに

朝井リョウさん執筆の原作は、7人の女子高生を主人公とした「7つの短編」からなる小説です。
共通する登場人物や場所は多少出てくるものの、それぞれのエピソードは独立して交わることなく、卒業式~翌日の校舎取り壊しの時系列に沿って、リレーのように直列に進んでいきます。

一方、監督中川駿さんが脚本を書いた映画版は、原作に登場する「7つの短編」から「4つのエピソード」をピックアップしました。(3エピソードを割愛)

「卒業前日~当日」の2日間に起きた出来事として、4つのエピソードを同時並行させる形式に描き直しているため、その他の内容には大幅に変わっているようです。

原作小説を映画用の脚本に改変した際に、この4人の少女のエピソードを選んだことについて、監督の中川駿さんはインタビューでこう答えています。

まず、原作の忠実に組まれたパズルを外して、映画なりに組み替えてみようとしましたが、どうやっても無理でした。だからその考え方は捨てて、原作をぼくの中で吸収し、自分の解釈で作り直す方法をとりました。ぼくが原作を読んで感じたことは、この物語が絶対的な別れをどう受け止め、どう成長していくかの話だと。今回、割愛した3つのエピソードは、成長しているのが少女ではなくて相手側であったり、そもそも成長とはちょっとニュアンスの違う話でした。

あしたメディア

脚本は非常に苦労されたようですね。
原作者の朝井リョウさんは、自著の映画化に関して「映画ならではの表現」に期待する寛大なスタンスを取られているようで、その姿勢にも助けられたとのこと。

朝井さんは、ご自身の小説の映画化のスタンスとして、小説をそのままやってほしいと思っていないそうです。
小説は小説で、映画は映画として別のものとして考えていて。映画ならではの表現に昇華されるものを観たいというスタンスだったので、今回、ぼくの思い切った改変も協力してくださいましたし、完成した映画についても、いち観客として素直に楽しめたとおっしゃっていただけたのは、すごくありがたかったです。

あしたメディア

一足先に試写会で映画を見た「原作ファンの方」ほとんどが、

  • 映画は原作とは全く別ものになっていた

と感じているようで、「映画は映画で素晴らしい」「原作と変わり過ぎていて残念」と賛否両論ありました。

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映画版に採用されたエピソード

夜明けの中心

「夜明けの中心」
原作あらすじ

【登場人物】
料理部元部長:まなみ
剣道部エース:駿
剣道部元キャプテン:香川

卒業式の日の深夜、校舎が取り壊される日の午前2時頃。まなみは真夜中の高校を訪れ、あらかじめ窓の鍵を開けておいた北棟から侵入し、南棟を目指す。
途中の教室で人の気配を感じ、咄嗟に「駿?」と呼びかけるまなみ。
そこにいたのは友人の香川。
香川は「今日もし誰かと出会うなら、まなみだろうなって思っていた」と声をかけ—。

映画の軸となるエピソードとして「夜明けの中心」が採用されています。
原作小説を読んで、まなみと香川の気持ちに感情移入して不覚にも大号泣してしまった、個人的にも印象深いエピソードです。

まなみと駿に起こるコアの出来事などは同じようですが、先述した通り、2日間に起こった4つのストーリーを並列進行させる形式に描き直しているため、その他の内容には大幅に変わっているようです。(香川が出て来ないのも改変の1つ)

大きな改変に「まなみが卒業生代表の答辞を読む」があります。

映画版では割愛された「在校生代表」のエピソードは、2年生が卒業式に読んでいる「送辞」そのものが描かれており、その要素をまなみの話に入れ込んだのではないかと推察しています。
これが、中川監督の「原作をぼくの中で吸収し、自分の解釈で作り直す」という方法なのかもしれませんね。

まなみが読む答辞は一発撮りで、つっかえた部分などを含めてリアルにそのまま採用したとのことで、「卒業式前~式中の空気感の再現が素晴らしい」との高評価が多かったです。

実際に、まなみを演じた河合優実さんは高校卒業時に答辞を読んだことがあるそうで、その経験も活かされているのかもしれないですね。

今作は映像をあえてザラつかせて不鮮明にしていたり、揺れるハンディカメラで撮影したりと、ドキュメンタリーのような映像が特徴のようですが、駿が転落してまなみが階段を駆け下りるシーンの撮り方が非常に印象的で惹き込まれたという感想が多々ありました。

原作ではなかったシーンですし、予告でもチラっと出てくる「周りから押さえられながらまなびが叫んでいる」鬼気迫るシーンに繋がる場面だと思われるので、非常に気になっています。

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寺田の足の甲はキャベツ

「寺田の足の甲はキャベツ」
原作あらすじ

【登場人物】
女子バスケ部元部長:後藤由貴
元男子バスケ部:寺田賢介

卒業式が終わって、卒業ライブが行われるまでの時間。
体育館は部活生のものになる。

バスケ部の後藤と寺田は、付き合って約1年の部内カップル。卒業アルバムに寄せ書きを書くことに熱心になる女子と、早々にバスケを始めてはしゃぐ男子。

後藤はある決意を持って、寺田と2人で体育館を出る—。

バスケ部の後藤と寺田の話も、映画に採用されています。
お互いに進みたい道が違うため「卒業」という強制的な区切りで離れなくてはいけないという現実、それを分かっていながらもお互いに口に出せない空気感が、とても切なかったです。

個人的には後藤が持つ「何だか分からないけどこの町にいるのは何か違う、東京に行かなきゃいけない」と東京に強く惹かれる根拠のない気持ちが痛いほど共感できました。

「東京に憧れを持って上京する後藤と、地元に残る寺田の物語」という大元の軸は変わらないものの、映画の予告編を見ると、

  • 寺田が予備校生ではなくて進学が決まっている
  • 卒業を前に2人がケンカをしている
  • 花火をする場所が屋上

など、細かい点での違いはありそうです。
鑑賞後の感想やメイキング映像を見ると、後藤の性格も、原作よりも明るいというか前向きというか「卒業したくない」という気持ちを全面に出したキャラクターのようですね。

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四拍子をもう一度

「四拍子をもう一度」
原作あらすじ

【登場人物】
軽音部元部長:神田杏子

放送部元部長:氷川
軽音部「ヘブンズドア」ボーカル:森崎

卒業ライブを控えた体育館。
ライブのトリを務める校内1番人気のビジュアル系バンド「ヘブンズドア」のメイク道具と衣装が、控室から無くなった。
犯人捜しで出演する軽音部のバンドたちが揉めている。
このままじゃ「ヘブンズドア」はライブに出られない。

「絶対に探し出さないと」と、神田は焦り、イラついていた—。

軽音部の面々のコミカルなやり取りや「ヘブンズドア」のネーミングセンスなど、随所に笑いどころがあるこのエピソード。
森崎のキャラがとてもいい味を出してますよね。

原作小説はライブの控室と練習室の回想シーンのみでしたが、映画では幼馴染である神田と森崎の2人の関係性が分かる描写が多いようです。
放送部元部長の氷川は出て来ない代わりに、映画では神田の後輩の「小西」が登場し、いつも神田の近くにいます。

映画には、原作小説にはない「森崎の歌唱シーン」があるようです。
映画を鑑賞した方の感想でも、
「森崎の歌が素晴らしかった」
「あの歌唱シーンだけでもこの映画を見る価値がある」
と大絶賛でした。

歌唱シーンの歌声は録音を後からあてる予定だったものを、撮影当日に急遽生歌に変更して撮影したという撮影秘話も。
当日の提案に対して、全く気負わずに承諾した森崎演じる佐藤緋美さんの度胸もさることながら、その素晴らしい歌声に中川監督は感心していました。

また、急遽変更したことにより撮影スタッフさん達にも緊張感が生まれ、それが映像にも反映されて良い化学反応を起こしたとも、インタビューで中川監督は語っていました。

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「エンドロールが始まる」

「エンドロールが始まる」
原作あらすじ

【登場人物】
・図書館に通っていた卒業生の作田

・一年生の古文担当の「先生」(金曜日だけ図書館管理)

卒業式の朝、作田は毎週金曜日に図書館管理に来る「先生」から借りた本を返すため、いつもより40分早い時間に「先生」を誘って待ち合わせた。

「最後に図書館に入りたい」と作田がお願いし、合併先の学校に本が運び出された何もない図書館に2人で入ることに—。

図書館で週に1度会う「先生」に想いを寄せる、作田の物語。

このエピソードは改変した部分が多く、原作ファンの方から「残念だった」という声が多いですね。

  • 作田が学校に居場所がない人物という設定になっている
  • 作田の性格が変わっている

メイキング映像を見ると、監督は作田を演じる中井友望さんに対して、

「学校が楽しい場所ではなかった人もいる。そういう子に響く部分を作田に担ってもらいたい」

と声をかけたとのこと。

中井友望さん自身も学校が苦手だった学生時代を過ごしていたことで、

「そういう子が見て、少しでも気が緩むようなキャラクターを演じられたら良いなと思って、割と私そのままで演じました」

と話していました。

作品全体のバランスや、幅広い視聴者に共感してもらえるように考えた改変だったようですね。

作田の話で核となるのは『卒業アルバムの個人写真を、1度だけ写真で見た「先生」の奥さんに似せるために努力していた』というエピソード。
髪を伸ばして、短い髪を一生懸命髪留で結んでいたのはそういうことだったのかと、作田の健気な想いと、それを汲み取ってあげた先生の優しさに感動しました。

映画ではその部分が丸々なくなっているようで、作田の話が好きな原作ファンの方は残念がっていました。

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割愛したエピソード

屋上は青

「屋上は青」
原作あらすじ

【登場人物】
孝子

・尚輝

いつも自由にやりたいことを見つけて、他の人とは違う道を進んでいく尚輝と、優等生でいることしかできない孝子。

卒業式が始まる30分前、幼稚園からの幼馴染である尚樹と孝子は、立ち入り禁止の東棟の屋上にいた。

憧れや恋心、周囲への優越感だけでない、嫉妬や自己嫌悪、焦燥感などの様々な感情が入り混じった「一番近くにいる輝く存在」に対しての想い。
その輝く存在にも恐れや不安があることを知って、制服や校舎に囲まれていたら気づけない生き方に気づく。
何が正解で何が幸せか、人の数だけ形がある社会に出ていく前に、優等生の孝子が初めてサボったのが卒業式という事実が印象に残りますね。

在校生代表

「在校生代表」
原作あらすじ

【登場人物】
・生徒会兼バスケ部の2年生:岡田亜弓
・生徒会長:田所啓一郎

在校生代表として卒業式でステージに立った「岡田亜弓の送辞」が短編全編に綴られている。

亜弓のキャラクターが炸裂している、非常に好感の持てるエピソード。
ザビエルみたいな先生がいたらいいなと心から思いました。

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ふたりの背景

「ふたりの背景」
原作あらすじ

【登場人物】
・高原あすか

・楠木正道

高校1年生の9月、親の仕事の関係でにカナダから転入した高原あすか。
転入直後に行われた文化祭で居場所がない高原あすかは、壁画を描く男子生徒・楠木正道と出会い…

親の仕事の都合で別れには慣れっこになっていたり、クラスメイトの里香から嫌がらせを受けても淡々としている様子もあり、あすかは年齢の割に達観している印象を受けます。

知的障害がある正道と出会い、余計なことを話さず、丁寧に言葉を選び、物事の本質を見つめる正道に信頼感を抱き、次第に心を開いていくあすか。

真摯に別れと向き合い、受け入れていく正道を通して、あすかの心に温かく優しいものが流れ込んでいくことを感じられるような、個人的に一番好きなエピソードです。

他の話と違い、別れに希望が持てるところが良いですよね。
映画化されると聞いて、正道が描いた絵を映像で見られるのかと楽しみにしていたので、少し残念でした。

▼映画と原作小説は別の良さがありますね。映画で割愛されたエピソードも是非読んでみてください。

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