松山ケンイチさん、長澤まさみさん主演で公開される映画「ロストケア」
原作は骨太な社会派本格ミステリー、作家・葉真中顕さんの小説「ロスト・ケア」
2013年、第16回「日本ミステリー文学大賞新人賞」受賞作です。
映画化されるにあたって、原作とどのような違いがあるかを調べてみました。
▼小説「ロスト・ケア」は音で聴けるAudible版も出ています。検事と犯人の緊迫したやり取りをプロの朗読で聴くのも良いですよね。
目次
映画「ロストケア」原作との違い|検事の性別
まず分かりやすいところから説明すると、「登場人物である検事の性別」の違いが挙げられます。
原作
検事は男性:大友秀樹
映画
検事は女性:大友秀美(長澤まさみ)
(C) 2023「ロストケア」製作委員会
映画「ロストケア」公式HP
その他にも女性検事にした理由があるかもしれませんが、この変更は「キャストありき」のものかなと個人的には考えます。
会話劇が中心の映画になると、男性と女性の対峙の方が絵的に映える部分もあるのかなと。
原作では、大友検事の妻との関係なども心情に大きく作用していたため、女性への改変により、検事家族とのエピソードが削除になるのか、別の形で生まれ変わるのか、注目しています。
映画「ロストケア」原作との違い|叙述ミステリー要素を排除
そして、一番の大きな違いは、以下の点になります。
原作
犯人が最後まで分からない「叙述ミステリー形式」で描かれている。
映画
最初に犯人が明かされていて、検事との対峙がメインになっている。
原作では、冒頭から犯人は<彼>として登場していて、特徴などの記載はあるものの、名前や特定できそうな情報は明かされません。
また、その特徴も「ミスリード」を起こす要素が隠されており、最後に二重三重に驚かされることとなります。
最低限の情報を記述した文章から、読者個人個人の脳内に「犯人の輪郭」を想像させるという手法は、実写では情報量が多く含まれて必要以上に開示してしまうため難しく、まさに小説ならではの方法と言えるかもしれません。
- 「社会の穴」に落ちた介護に苦しむ登場人物を通して現代社会を痛烈に表し、まるでノンフィクションかと思わせる社会派の内容
- 犯人は誰なのかという謎解き
- 犯人の動機や真の目的に対して、お互いの価値観をぶつけ合う検事と犯人との対峙
この三要素が非常にバランス良く、かつ濃厚に描かれているのが原作の特徴です。
あらすじによると、検事・大友の捜査によって犯人は早々に捜査線上に浮かび、捕まって動機も明らかになる展開。
検事と犯人との会話劇が中心で、裁判中の様子や被害者家族の葛藤、検事の個人的な心の動きが重点的に描かれていると見受けられます。
原作から犯人の謎解きを排除して、
- 「社会の穴」に落ちた介護に苦しむ登場人物を通して現代社会を痛烈に表し、まるでノンフィクションかと思わせる社会派の内容
- 犯人の動機や真の目的に対して、お互いの価値観をぶつけ合う検事と犯人との対峙
上記要素を残し、かつ「犯人と検事」を中心に据え、「犯人と介護」の経験や考えをより印象的に描いているようですね。
映画「ロストケア」原作との違い|登場人物の違い
登場人物の違いもあります。
原作
佐久間功一郎:総合介護企業「フォレスト」営業部長。大友秀樹の高校時代の同級生。
→映画では登場せず。
映画
梅田美絵(戸田菜穂):父親・梅田久治が総合介護企業「フォレスト」の訪問介護を受けている。
→映画のみの登場人物。原作では「父親・梅田久治」は登場し、家族の存在も話の中で出てはくるが登場しない。
(C) 2023「ロストケア」製作委員会
映画「ロストケア」公式HP
同級生の佐久間は、原作ではかなり大きな役割を担っていましたが、逮捕後の犯人と検事の会話劇中心の展開となったことにより、割愛しても差し支えない部分となったのだと推察します。
予告を観た限り、佐久間の代わりに「人殺し!お父さんを返せ!」と法廷で叫ぶ被害者遺族:梅田美絵を追加し、母が死んで「救われた」と話す同じく被害者遺族の羽村洋子(坂井真紀)との対比を描いて、話に奥行きを出しているのかなと考えます。
犯人は梅田久治を殺す前に捕まり、梅田久治は生きています。
映画「ロストケア」原作との違い|あとがき
原作者である葉真中顕さんが「最初は映画化は難しいのではと思っていたのですが、まったくの杞憂でした」とコメントするほど、素晴らしい作品になっているようです。
原作も読む予定があり、犯人を突き止めるミステリーを楽しみたい方は、先に原作を読んで映画を観た方が良いかもしれません。
例え犯人が分かったとしても、原作の面白さや衝撃は無くならないので、映画を観てからでも充分楽しめますよ。