柚月裕子さんの小説「合理的にあり得ない 上水流涼子の解明」のあらすじやネタバレ、著者の感想を掲載しています。
柚月裕子さんと言えば、暴力団抗争を描いた警察小説で映画化もされた「孤狼の血」シリーズなど、ヤクザと警察の攻防や社会問題をテーマにした重厚な作品を書く作家のイメージがありますが、
今作はエンターテイメント性と読後の爽快感が高く、良い意味でサクッと安心して読み進められる一冊です。
2023年4月よりフジテレビ月10枠でドラマ化されることも決定しました。
既読の方には復習用に、未読の方にはどんなストーリーかあらすじの確認用に、
この記事を役立てていただけたら幸いです。
目次
「合理的にあり得ない 上水流涼子の解明」あらすじ
上水流涼子は弁護士資格を剥奪された後、頭脳明晰 な貴山を助手に探偵エージェンシーを運営。
柚月裕子「合理的にあり得ない」特設サイト
金使いが荒くなった妻に疑念を抱く夫、賭け将棋で必勝を期すヤクザ、野球賭博絡みのトラブルetc。
欲に塗れた人物たちの難題を涼子は知略と美貌を武器に解決するが……。
著者の魅力全開、極上痛快エンターテインメント!
頭脳明晰、美人でスタイルも良い元弁護士である上水流涼子(かみづる りょうこ)と、
IQ140で演技力も高い、助手の貴山伸彦(たかやまのぶひこ)が、依頼を元に「表沙汰にならない悪」を成敗するストーリー!
それぞれの依頼を解決する5つの短編からなり、話が進むにつれ2人の関係性や上水流の過去が明かされていきます。
依頼に対しての解決方法が非常に豪快かつ大胆で爽快感があり、軽いタッチ描かれているので肩ひじ張らずに読むことができると思います。
これまでの柚月裕子さんの作品を読んだ方は、今作の真逆のイメージにビックリするでしょう。
▼ドラマに登場するキャラクターについての解説はこちらにも記載があります。
「合理的にあり得ない 上水流涼子の解明」ネタバレ含むあらすじ
メインキャラ2名の人物説明
合理的にありえない 公式HP
高い知性と美貌、豪快な行動力も持ち合わせる女性。
亡くなった父親の代から引き継いだ自分の事務所「上水流法律事務所」を持ち、優秀な弁護士として活躍していたが、ある傷害事件をきっかけに弁護士資格を剥奪された。
目的のためなら違法行為も行い「殺しと傷害」以外は引き受ける「上水流エージェンシー」を立ち上げる。
高額な報酬で、公に出来ない揉め事を解決する何でも屋として活躍している。
明確な年齢は作中に出て来ない。初めて会った人からは30代前半と見られてはいるが、6年前の事件で資格剥奪、貴山に対して自分の方が“年上”と表現しているので、30代後半以降の可能性も)
合理的にありえない 公式HP
東大卒(将棋部主将経験者)、IQ140で頭脳明晰。多くの分野に精通しており記憶力も高い。
さらに端正な顔立ちでスタイルも良い。
気働きや実務能力も兼ね備えた非常に有能な人材だが、仕事にも人にも冷徹で人付き合いが苦手。
元俳優志望で劇団員に所属しており演技が上手いが、そのことを知られたくないと思っている。
身の回りは質素で贅沢はしないが、体に取り入れる物は上質なものを選び、紅茶を淹れる腕前は一級品。
上水流のもとで雇われている理由は「居心地がいいから」
「本当は私に気があるんでしょう」という上水流の問いには、毎回心底嫌そうな表情で答えている。
確率的にあり得ない
【登場人物】
新井 大輔
藤請建設 社長秘書
本藤 仁志
藤請建設 二代目社長
高円寺 裕也
予知能力があるという謎の男
【あらすじ】
藤請建設の二代目社長・本藤は「予知能力があるという謎の男」高円寺を自社のコンサルタントとして招き入れることを決め、今まさに高円寺に契約金の小切手を渡そうとしている。
同席している社長秘書の新井は、その様子を不安に駆られながら見ていた。
ちょうど高円寺が小切手を懐に入れた時、ある女性に呼びかけられ—
藤請建設の二代目社長・本藤は、クラブのママの紹介で予知能力があるという高円寺と知り合い、その力に心酔して2年で5000万円という高額なコンサルタント契約を結ぼうとしていた。
そこに、中国企業の中国人社長と女性秘書に扮した上水流と貴山が話しかけ、「未来が見通せるなら、中国人社長が買うロト6を買うから当せん番号を予知してくれ」と頼む。
その報酬は、ロトの一等賞金の最低金額である1億円の半分、5000万円。
高円寺は応じて、ロト6の当選番号を予知してメモに書き、女性秘書(上水流)に渡す。
中国人社長(貴山)は、秘書を通じて下記を高円寺に伝える。
- キャリーオーバーが出た場合も自分が受け取る分は5000万円でいい。残りは高円寺に渡したい。
- 今すぐ高円寺に賞金の差額を支払いたい。
- 自分の会社は中国にあり、支払地が違う場合小切手は手数料がかかる。自分は今夜中国に帰らなくてはいけないため、高円寺に手数料の負担をさせずにこの場で支払いたい。
上記を叶えるべく「自分が受け取った当せん番号のメモを高円寺に渡し、代わりに本藤が高円寺に渡した5000万円の小切手をもらう」という方法を提案。
当せん番号がデタラメだと分かっている高円寺は、小切手を渡すことができない。
女性秘書(上水流)に糾弾されて小切手を置いて逃げる高円寺。
騙されたショックで唖然として肩を落とし「自信がなかった」と嘆く本藤に、上水流は「あなたになかったものは自信ではなく、負けた時の覚悟だ」と言い放ち、立ち去る。
今回の依頼人は、先代社長の妻である本藤の母。
高円寺の件は、秘書の新井から報告を受けていた。
一代で会社を築き上げた夫を経理として支えてきた時期もあり「未来は努力でしか切り開くことはできない」という信念を持ち、高円寺に疑惑の目を向けていた。
合理的にあり得ない
【登場人物】
神崎 恭一郎
バブルで得た資金を運用し、株の配当で暮らす資産家。
神崎朱美
恭一郎の妻。
【あらすじ】
神崎恭一郎は、三か月ほど前から妻が頻繁に家を空けるようになったことを訝しんでいる。
2000万円にも及ぶ貯金の使い込みも発覚し、朱美を問いただすと「ある霊能力者のところに出入りして、幸せを呼ぶ品物を買った」と告白。
興信所に頼んで動向を探ると、綾小路 緋美子という霊能力者に辿り着き―…
今回の依頼人は、以前神崎に土地売買の詐欺で騙されて自殺した男性の妻。
夫が騙し取られた2000万円を、神崎から奪い取って欲しいというものだった。
神崎の詐欺まがいのトラブル報道のせいで息子が引きこもりになってしまったこと。
家庭を顧みない神崎に、朱美は大きな孤独を抱えて苦しんでいること。
身辺調査をした際に、朱美も息子も神崎の被害者だと感じ、依頼の遂行と朱美を少しでも救ってあげられる計画を立てた。
それが、上水流が霊能力者に扮して朱美に近づいた理由。
霊能者から買った皿のおかげで、引きこもりの息子が心を開こうとしたと喜びを共有する朱美に対して、高額な無価値の商品を買わされたことに激昂して皿を床に叩きつけて壊した神崎。
息子の変化に歩み寄りも喜びも一切なかったことで思いが明確になり、朱美は神崎と離婚して息子と2人で生きていくことを決心した。
決意が綴られた朱美からの手紙と離婚届を上水流から手渡され、それを破り捨てて途方に暮れる神崎の描写で、この話は終わる。
戦術的にあり得ない
【登場人物】
日野 照治
山梨に本拠を置く暴力団・関東幸甚一家の五代目総長。将棋の腕前はアマチュア四段クラス。
米澤 健一
関東幸甚一家の若頭。
財前 満
長野を本拠に置く暴力団・横山一家の三代目総長。日野と互角にやり合う将棋の腕前を持つ。
【あらすじ】
上水流エージェンシーの事務所に、関東幸甚一家の五代目総長・日野と米澤が訪ねてきた。
巨額の掛け金が動く賭け将棋で、実力が拮抗していた好敵手の財前とここ1年半はいい勝負を繰り広げていたが、この夏から財前の腕が見違えるほど成長し、日野は三連敗を喫している。
将棋は急激に上達することはあり得ない。
日野は「財前が不正を働いている」と考え、勝っても負けても次の勝負で最後の対戦にするつもりの次の大一番を「どんな手を使ってでも勝たせろ」と上水流に依頼してきた。
対戦までの1か月間、貴山は元東大将棋部主将の知識と腕前をフル稼働させ、寝る間を惜しんで財前の不正を暴く。
財前は、コンピューター将棋ソフトの差し手を仲間から教わり、その手通りに将棋を差していた。
財前が使用しているソフト、及びそのソフトが対応できずにバグが起こる局面も突き止めた貴山は、対応不能の局面に導くためにあらかじめ日野に差し手を共有する。
また、当日は会場内にある壁掛け時計と日野がかけているメガネに細工をして、貴山からの指示を日野に伝えた。
無事に日野が勝利し、祝杯をあげる中で上水流たちは財前がどうやって差し手を受信していたのかを日野に伝える。
なんと、日野の信頼する部下である若頭の米澤が財前側のスパイだった。
米澤は、ワイヤレスイヤフォンで差し手を音声で受信し、体の特定の部位を触るなどのボディーランゲージで、財前に伝えていた。
日野を引退に追い込んで自分が総長の座につくことを条件に、財前の話に乗ったとのこと。
心情的にあり得ない
【登場人物】
諫間慶介(げんまけいすけ)
海運・造船事業を主に運営する諫間グループの社長。
亡くなった上水流の父と公私ともに交流があり「上水流法律事務所」は父娘2代に渡って諫間グループの顧問弁護を務めていた。
諫間久実(げんまくみ)
諫間慶介(げんまけいすけ)の孫。(長男の一人娘)
【あらすじ】
上水流エージェンシーに、驚く人間から依頼の電話が入る。
忘れもしない、上水流の因縁の相手である諫間慶介だ。
反対する貴山を説き伏せ、上水流は依頼を聞きに諫間と会うことにする。
依頼の内容は「家出した孫娘を探してくれ」というものだった―。
諫間からの依頼を通して、上水流が弁護士資格を剝奪されるきっかけとなった傷害事件や、貴山との出会いも描かれる重要話。
上水流が弁護士資格を剝奪された傷害事件の首謀者は諫間だった。
業務不振の中でも事業拡大に舵を切って長男を社長に据えたいと画策する諫間は、事業縮小して会社立て直しを推進する上水流が邪魔になり、傷害事件をでっち上げて顧問弁護から外した。
その因縁の相手の依頼を受けることを決意した上水流。
孫娘を助け、保身をはかる諫間を陥れるために動き出す。
孫娘・久実が合コンで知り合った男は麻薬の売人であり、久実は薬欲しさに自分から男に身を寄せっていた。
上水流自ら美人局を仕掛け、男を嵌めて身柄を知り合いの刑事に引き渡し、男の自宅にいる久実を保護して薬物検査をするように依頼する。
過去の事件の回想。
弁護士としてホテルラウンジで依頼人と談笑中、相手に暴力を振るったことは他の目撃者の証言からも事実のようだが、上水流には殴った時の記憶だけがない。
自らに起こったことを解明しないと先に進めない上水流は、かかりつけの精神科医との会話から、殴った依頼人からリラクゼーションの一種であるヒプノセラピーを勧められ、施術師を紹介してもらって訪れたことを思い出す。
上水流はそこで、ある言動や局面によってスイッチが入り、暗示に従い行動を起こしてしまうという「後催眠暗示」をかけられていた。
その施術師が、貴山であった。
心理的にあり得ない
【登場人物】
予土屋 昌文 (よどや まさふみ)
阪神ファン御用達の焼き鳥屋「虎昌」の常連客。
天見 篤史
30代前半の「虎昌」の常連客。父親が会社経営者で裕福な家庭。脛をかじって遊んで暮らしている。
先月までアメリカに留学していた。
【あらすじ】
「虎昌」のカウンターで、予土屋は自分が賭けた試合のラジオ中継をイヤフォンで聴いていた。
自分の賭けが的中して安堵しているところに、常連客である天見が入ってくる。
馴れ馴れしく阪神愛を語る天見にうっとおしさを感じ、帰るタイミングを計っていた予土屋だったが、天見が博打好きという話を聞いて動揺を抑えきれない。
さりげなさを演出しながら会話を続ける―。
依頼人は、予土屋に野球賭博で騙されて自殺した男性の娘。父を騙して死に追いやった人間を探し出して復習したいという依頼。
予土屋は、阪神ファンのカモを探し出し「自分が間に入ってあげるから安心だ」と野球賭博の話を持ち掛ける。
胴元から発表されるハンデの数字を阪神に賭けると不利になるように調節してカモに伝え、差額を着服して搾取していた。
貴山は「天見 篤史」という金持ちボンボンの人物になりきり、偶然を装い予土屋に近づいて上質なカモだと信じ込ませ、野球賭博へと誘導させた。
貴山は胴元とパイプを造り「予土屋に知らせるハンデを、ある試合に関してだけ阪神の相手球団に有利になるように設定してくれ」と依頼。
予土屋は天見は必ず阪神に賭けると思い込んでいるので、胴元から送られてきた相手球団有利のハンデに、さらにハンデの上積みをして天見に知らせる。
そこで天見は巨人に賭ければ、かなりの確率で勝てるという作戦。
予土屋が逃げたら胴元に取り立てを依頼、賭けに負けたらバックレる。
買っても負けても胴元に「アガリをくすねている人間がいる」と密告すれば、予土屋は五体満足じゃすまない、と貴山の万全の策が練ってあった。
痛快エンタメ!合理的にあり得ないネタバレあらすじ感想 あとがき
「孤狼の血」を書いた作家さんの作品ということで、読む前は身構えていたのですが、非常に読みやすく分かりやすい文章でサクサクページが進みます。
良くも悪くも「軽い・浅い・薄め」という印象があり、謎やトリックにもそこまで意外性はなく、登場人物の心情描写なども「もう一歩踏み込んでもらえたら、より感情移入も出来るし感動できるのになぁ」という場面が多々ありました。
短編集なので掘り込み浅くなってしまうのは致し方ないのですが。
主人公2人が頭脳明晰で容姿端麗という部分をはじめ、展開や設定が都合良すぎて浮世離れ感が漂いますが、そんな「現実的にはあり得ない」2人が「現実的にあり得ない」方法で依頼を解決していく豪快さや鮮やかさが、この作品の魅力かなと。
濃密なトリックやミステリー、繊細な人物描写を望む方には向かないかもしれませんが、軽いノリでテンポよく読み進められて読後の爽快感もあるので、娯楽作品としてはとても良いと思いました。
まさに実写映像化向きですよね。
ドラマ化、小説続編発売も楽しみです!
▼「合理的にあり得ない 上水流涼子の解明」の続編、2023年3月29日に発売決定!